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REPORTS

聴覚障がい者のためのからだワークショップ

新潟大学創生学部3年生・藤村咲月さんが本年度からご自身の研究のためにNoismの活動を定期的にご覧いただいています。今回のワークショップは藤村さんがレポートします。

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私は大学で社会とアートの関係性について学んでおり、公共劇場専属舞踊団であるNoism Company Niigataを取り上げて研究を進めていくことによって、公的部門がアートを支援するということの意味や方法について考え直したいと構想しています。
今年度からは、実際にNoismの活動を見学させていただく機会に恵まれ、知見を広めようと頑張っています。


2023年10月7日(土)聴覚に障がいをお持ちの方を対象にからだワークショップが開催され、私は見学をさせていただきました。昨年度から始まったこのワークショップは、今回で2回目の開催で、聴覚障がいをお持ちの参加者以外にも、手話を用いて通訳、サポートしていただく方や、スクリーンに文字を投影し、聴覚障がいをお持ちの方に情報を共有するためサポートいただく方など多くの方で会場はにぎわっていました。


2回目の開催ということで、聴覚障がいの方とメンバーの双方がまだまだ緊張している様子でした。しかし同時に、これから起こっていくであろうことに対して期待しているような、希望に満ちた空気も感じられました。
まずは手話で自己紹介です。手話や表情を通じて、お互いを知ろうという気持ちに満ちた空間が立ち現れました。自己紹介が終わる都度、みんなが手話で拍手を行い、会場全体が一体感を帯びたあたたかい空間となりました。


自己紹介のあとはNoismで重視している皮膚感覚を起こすストレッチです。全身をこすり、身体を起こしていきます。ペアになりお互いの手を平行に合わせ、動くワークもここで行っていました。手を下にしている人の動きに合わせ、手を上にのせている人がついていくのですが、予測不可能な緩急やアクセントを取り入れた動きに思わず笑いがこみあげてくる、そんなあふれる活気につられ、こちらも気づいたら笑顔になってしまいました。

今度はお互いに少し距離を取り、見えないつながりがあるのを感じて、相手の動きに連動するワークです。アイコンタクトをしっかりと意識して、心からつながっているのを感じます。近づいたり、離れたり、真似したり、逆に動いたり…。ここでは、聴覚に障がいをお持ちの参加者の皆さまとメンバーとのあいだに、言葉ではなく“からだ”で会話をするということが成立していて、そしてその行為を、双方が心から楽しんでいる様子が伺えました。

そしてついに、ビートルズ「イエスタデイ」で手話踊り作りに挑戦です。
歌詞を元に手話を表現し、踊りにしていくのが目標です。
分かれたグループで歌詞を分担し、参加者の皆さまに手話を教えていただきながら、メンバーを軸に1つの踊りを考えていきました。
参加者の皆さまは手話を意味のまま当てはめていくのではなく、歌詞をイメージで捉え、手話で創造的に世界を描いていきます。そしてそれを踊りにつなげていくNoismメンバー、彼ら全員で「イエスタデイ」を丁寧に解釈し、新しくオリジナルな世界を築いていきました。


手話を決めたら曲のテンポに手話を合わせ、1つの表現を形作っていきます。
ここでは、リズムに合わせて手話を考え直すなど、動きそのものの美しさも追及する姿が印象的でした。ここでも、参加者の皆さまの想像力や感受性の豊かさに驚かされます。
ステップを加えると、動作の1つ1つに特別な想いが込められた“踊り”が完成しました。創作過程からは、Noismメンバーと参加者の皆さまが表情やしぐさから意思疎通を行い、楽しみながら、そして真剣に1つの作品にしていく姿が印象的でした。

最後に、グループで分かれて作った踊りを合体させると、1つの「イエスタデイ」が浮かび上がりました。
動きとその動きの持っている意味が合わさる踊りが放つ力は強く、参加者の皆さまとNoismメンバーが共に踊るその光景からは、多くのものを感じさせられました。


全行程を終え、参加者の皆さまと振り返りの時間です。
「アイコンタクトをとったことでうまくリズムを取ることができた」
「みんなで作った手話踊りが綺麗だった」
「ビートルズの歌はこうだったのかと初めて分かった」


芸術をより多くの方に身近に感じていただくために行う、インクルーシブなアプロ―チとして今回のようなワークショップは、参加者の皆さまが実際に踊りを体験し、本物の芸術に触れることができるというところに魅力があると思います。
参加者の皆さまの中には、ワークショップの余韻に促され気づいたら自宅で軽く、踊ってしまっていたという方もいらっしゃるのではないでしょうか?
芸術が身近なものになるとはまさにこのことであり、広く考えると、この積み重ねが地域に芸術が根付くことに繋がるのだと思います。
今回のようなワークショップも、公共劇場の専属舞踊団であるNoismが今後も果たしていくべき重要な役割の1つなのだと改めて理解することができました。


地域活動部門芸術監督の山田勇気さんは、
「手話の表現と同じように、単なる記号ではなく表情や角度によって意味が変わってくるものとして舞踊を改めて捉える機会となった」とおっしゃっていました。


このように、参加者の皆さまだけでなく、アーティストにとってもワークショップが意義深いものであることは、Noismのワークショップが回数を重ねるごとに内容、質ともに発展を続けている秘訣なのではないでしょうか。
参加者の皆さまとメンバーの刺激し合う関係性、芸術を介した絆が、今後も末永く続いてくことを願っております。


ご参加いただいた皆さま、Noism関係者の皆さま、
今回は貴重な機会をありがとうございました。
藤村咲月(新潟大学 創生学部 3年)


ワークショップ写真:遠藤龍

私たちはNoismの活動を応援しています。