Noismバレエミストレス真下恵が、創作の日々の中からお届けするコラム。
ある時は演出振付家の隣でメモをとり、またある時には舞踊家たち一人一人に客観的視点からアドバイスし、リハーサルを見つめ続けてきたミストレスだからこその目線で時折綴ります。
photo: Kishin Shinoyama(2014年初演より)
「バレエミストレスコラム−カルメン再演への物語」第3話 2016.01.28
これまで12年間のうちに上演してきた数々のNoism作品の中でも『カルメン』という作品の一番の特徴は、俳優が出演しているということではないでしょうか。
”プロローグ”と呼ばれる冒頭のシーンでは、俳優・奥野晃士が演じる”学者”により、幕前でドン・ホセとの出会いが映像とともに語られます。
そしてプロローグの最後、
「するとホセは、悲しい一連の物語、カルメンという女について語り始めたのである・・・」
という学者の台詞によって、『カルメン』の物語の幕が上がるのです。
金森からの細かい演出はもちろん俳優にも出されます。
間の取り方や声音はもちろん、足の運び方、腰のおろし方、目線の使い方など。
あるシーンでは舞踊家に混ざり細かいカウント、複雑な動きで踊らなければなりません。
それら全てをコントロールしながら、且つ台詞を一定の速度で話すのには相当な集中力が必要とされるのでしょう。
しかしその抑制された身体から発せられる台詞は緊張感を増し、語られる言葉たちにより重みが出てくるのです。
奥野さんは、SPAC−静岡県舞台芸術センターの専属俳優として専門的な訓練を積み、様々な舞台に出演されています。
Noismでも毎日舞踊家と共にNoismメソッドはもちろんバレエクラス(一部分)も一緒に参加されるほど。
昨日は、写真家・篠山紀信さんが来られ、本番通りに行う通し稽古を撮影してくださいました。
「フォトコール」と呼ばれるこの通し稽古の日が来ると、舞踊家たちの間にも、いよいよ本番が近づいてきたという緊張感が充満します。
刹那で消えていく舞踊と日々向き合っている舞踊家たちにとって、永続的に残る「写真」という媒体にその一瞬が切り取られることは恐怖でもあり挑戦でもあります。
しかしそこに収められるという緊張感が舞踊家たちに良い刺激となって個々のキャラクターにより深みを持たせるきっかけとなることもまた確かです。
篠山さんは今回も舞台上にあがり、舞踊家と共に動き回りながら、すごい数のシャッターを切っていかれました。
こうしてNoismの10年間を捉え続けた舞台写真が、この度一冊の写真集になりました。
我々自身も見たことのない数々の瞬間が、そこには切り取られています。
写真集『JO KANAMORI / NOISM by KISHIN』は、公演会場でも販売されますので、ぜひご覧ください。
劇的舞踊『カルメン』再演、いよいよ明日、幕が上がります。
まだ観ていないという方、初演でもう観たという方、まだ誰も見たことのない(演出家でさえも見たことのない)新しい「カルメン」の扉を一緒にひらきにいきましょう。
Noismバレエミストレス 真下恵