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REPORTS

柳都会vol.21 森優貴×金森穣

9月29日に、Noism公開講座「柳都会(りゅうとかい)」を開催しました。
金森穣をホストとして、芸術・社会・暮らし・政治・思想・文化・経営など様々な領域で活躍する専門家をゲストに迎え、それぞれの専門的視座から見据える現代社会について共に考える場を持とう、ということで2011年に始めた「柳都会」も、今回で21回目を数えます。
 

ゲストの森優貴さんは、日本人として初めて欧州の公立劇場の芸術監督に就任した、演出家・振付家・ダンサーです。
2012年から今夏まで7年間にわたりドイツのレーゲンスブルク歌劇場ダンスカンパニーで芸術監督を務めてこられました。
この秋から主な拠点を日本に移し、帰国後の第一作目をNoismで発表することが決まっています。
森優貴さんと金森穣。世界の第一線で活躍してきた2人の舞踊家が、欧州で何を得て、日本に何を求め、今ここで何と対峙している/しようとしているのか。
「日本の劇場で、専属舞踊団は必要とされるのか?」をテーマに、劇場文化について真正面から考える会になりました。
 


 

公共劇場が専属の芸術集団を持つことは欧米では当たり前ですが、日本の劇場では専属の芸術集団を抱えているところは今もほとんどありません。
Noismが2004年に新潟で設立されてから16年目。未だ国内では続く劇場専属舞踊団は現れていません。
単に欧州と日本の環境を比較するのではなく、日本という国で劇場文化を根付かせていくためには何が必要なのか、ともに考えようという今回の柳都会。
まずは、森さんが芸術監督を務めていたレーゲンスブルク歌劇場について、写真と映像を交えながら基本情報をレクチャーしていただきました。
 

レーゲンスブルクは、ユネスコの世界遺産に登録されているドイツ連邦共和国の都市。人口は約12-13万人です。
新潟市の人口は約80万人ですから、レーゲンスブルクが決して「大都市」ではないことはご想像いただけるかと思います。
レーゲンスブルク歌劇場は、現在は3階建ての建物で、約600席の主劇場(オペラハウス)での公演を中心に年間40本近くの新作を世に送り出しています。
劇場の歴史は古く、元々はドイツの貴族トゥルン・ウント・タクシス家が所有していたボールハウスで、1700年代後半から1800年代に劇場として受け継がれたそうです。
劇場が建てられたのは1804年。神聖ローマ帝国宰相であり、レーゲンスブルク大司教でもあったカール・フォン・ダールベルクが、ウィーンの宮廷建築家であるエマニュエル・ヘリゴヤンに造らせた新古典主義建築だったそうです。
それが、1849年に大火災に見舞われ、閉鎖に追い込まれます。
市民の強い要望と寄付金で再建され、1852年に再び市立劇場としてオープンし、1990年代後半に大規模な改修工事が行われて現在に至っているとのこと。
 

劇場には、すべての責任者である支配人(インテンダント)がいて、そのインテンダントによって選ばれた芸術監督が4名、音楽・演劇・舞踊・青少年劇場の4つの部門それぞれで集団を率いて活動しています。
なんと、音楽家、俳優、舞踊家、スタッフ等々常に300名以上がこの劇場で働いているそうです!
この4部門制のシステムは、ドイツの地方公共劇場では最も一般的な形とのこと。
 

レーゲンスブルク歌劇場には、主劇場であるオペラハウス以外に、別の場所にもうひとつ新しい劇場があり、舞踊団としては年間2本の新作のうち、1本はオペラハウスでオーケストラ生演奏での公演(11月初演)、もう1本は新劇場で録音での公演(2月初演)を基本に、HIVチャリティガラ公演、劇場主催のミュージカルやオペレッタへの出演、若手振付公演…というスケジュールで、年間通してかなりの本数の公演に出演していることになります。
 

劇場の年間会員制度には、コンサート・オペラ・演劇・舞踊等のラインナップの好みと都合の良い曜日の組み合わせによって30種類以上のモデルがあり、会員は1年を通して決まった座席で鑑賞するそうです。
この他にも、レーゲンスブルク歌劇場の運営について、森さんの実感を伴った様々なお話に、参加された100名以上の方々の多くが相槌を打ちながら真剣に聞きいっておられました。
 


森優貴さん
 

レクチャーの中で見せていただいた森さん振付作品のトレイラー(レーゲンスブルク歌劇場による公演紹介映像)は、こちらからもご覧いただけます。
『Don Quijote(ドン・キホーテ)』(2014)
『INTIME BRIEFE / LE SACRE DU PRINTEMPS(春の祭典)』(2014)
『The House』(2016)
『BilderRausch: Klimt.Bacon(クリムトとベーコン)』(2018)*ゲスト振付家Felix Landererとのダブルビル
『Gefährliche Liebschaften(危険な関係)』(2019)
 

後半の金森との対談では、森さんが芸術監督を辞任し日本に主な拠点を移した今だからこそ感じていることや、舞台芸術の可能性などについて、参加者の皆さんからの質問にもお答えしつつ語り合いました。
 

楽譜のある音楽や、脚本のある演劇とは異なり、舞踊、しかもクラシックではなく同時代の作品創造は、毎回がゼロからのスタートです。
それは、森さんの例えによれば「独自の”金森語”や”森語”を探していくような」過程であり、一朝一夕にできることではありません。
芸術監督は、そのことの価値を伝え、環境を獲得し、自らの活動を信じてくれる舞踊家やスタッフを率いてそれを立証し続けていかなければなりません。
金森も、森さんも、そのことを「闘い」という言葉で表現していました。
それは必ずしも相手と敵対するという意味ではなく、価値観の異なる相手に、いかに自らの信念を伝え、共感を得て、「必要だ」と感じてもらえるかということです。
すべてが効率的に進むことを善とする社会では、時間のかかる創造活動を継続できる環境は、常に「闘い」続けなければ簡単に失われてしまいます。
劇場文化が街にしっかり根付いているドイツにおいてもそうなのですから、Noismが新潟で設立され、15年間も活動を続けてこられたことは、「奇跡のような事件だ」と森さんはおっしゃっていました。
そして国内では未だに続く劇場専属舞踊団がどこにも表れていないことが、「正直、腹立たしくて仕方がない」とも。
折しも2022年8月末までの活動更新が決まったばかりのNoismで、この冬の新作公演に森さんをゲスト振付家としてお迎えすることは、まさに運命だったと言えるのかもしれません。
ここから、我々Noismと、森さんの新たな「闘い」が始まります。
まずは12月初演の新作を、一人でも多くの皆様にご覧いただけることを願っています。どうぞご期待ください!!
 


 
 

Noism1+Noism0
森優貴/金森穣 Double Bill
 

『Farben』
演出振付:森優貴
『シネマトダンス―3つの小品』
演出振付:金森穣
 

【新潟公演】
2019.12.13(金)- 15(日)
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉
 

【埼玉公演】
2020.1.17(金)- 19(日)
彩の国さいたま芸術劇場〈大ホール〉
 

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